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ケーススタディ
9.土地と建物の所有者が異なる場合について
土地の所有者とその土地上の建物の所有者が相違する場合、通常建物の所有者にはその建物が存在する期間、その土地を使用する権利が生じます。この土地を使用する権利を借地権といいます。この借地権の価格はその土地の利用価値により異なり、その土地の所有権の価格に連動します。また建物の所有者と土地の所有者の相違(法人と個人)や地代の授受があるかないか、借地権売買の慣習がある地域かそれ以外の地域か等により取扱が相違するきわめて複雑な内容になっています。
(1)個人の土地に法人の建物
借地権の設定により権利金の授受があった場合には、個人(地主)はその対価の額に対し、不動産所得又は譲渡所得として所得税が課税されます。法人は、権利金を支払って、借地権を取得したことになります。
これに対し、借地権の設定により権利金の授受がなかった場合には、個人は課税されませんが、法人は、地主から権利金相当額の贈与があったもの(受贈益)となり、収入として法人税が課税されます。
しかし、借地権設定時に権利金の授受がなかった場合においても
①「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に提出したとき
②個人と法人との間で相当の地代(注)の授受があったとき
のどちらかの場合では、法人において権利金相当額の収入課税がされないようになっています。
①「土地の無償返還に関する届出書」は、「法人が建物を撤去する際、個人に無償で土地を返還する」という内容の届出書を土地所有者の個人と建物所有者の法人が共同で提出します。これにより、個人が所有する相続税法上の土地評価は、路線価格×80%となり、貸家建付地の評価減とほぼ同等の評価となります(法人の株価評価に際しては、路線価格×20%の借地権として計上して計算しなければなりません)。
(注)相当の地代 = 過去3年間の土地の相続税評価額の平均額 × 6%
(注)→こちらをご参照ください。
(2)父の土地に子の建物
父の土地に子が建物を建築した場合には、親子間で土地の地代の授受を行わない、又は地代が概ね固定資産税相当額以下であること(使用貸借)が通常であると思います。この場合、子に対して借地権相当額の贈与はなかったものとされています。したがって、子に借地権は生じないことになります。
(3)借地権の取り扱い
■個人の所有する土地を個人に貸した場合(借りた個人は建物を建築する)
土地の時価 5,000万円
土地の相続税評価額 4,000万円
借地権割合 70%
①乙に無償又は固定資産税相当額以下で貸した場合(使用貸借の場合) 乙に贈与税が課税されるか |
課税されない |
||||
②乙に通常の地代で貸した場合 乙に贈与税が課税されるか |
借地権の価額相当額について贈与税が課税される 贈与とされる額
|
なお、相当の地代(土地の相続税評価額(過去3年間の平均額)の6%相当額)を支払っている場合は、土地に借地権の設定がされても更地としての経済的価値が維持されているものと考えられることから贈与税が課税されません。
■ 個人の所有する土地を法人に貸した場合(法人は建物を建築する)
土地の時価 5,000万円
土地の相続税評価額 4,000万円
借地権割合 70%
①権利金の支払いがなく、地代の支払いもない場合(使用貸借の場合) |
法人は権利金相当額の受贈益として課税される
(会社の処理:仕訳) 借地権3,500万円 / 受贈益 3,500万円 |
||||
②権利金の支払いがなくても会社が |
ア)相当の地代を支払う方法 イ)甲と会社とが無償返還を約して「土地の無償返還に関する届出書」を提出する方法 |
■ 法人の所有する土地を個人に貸した場合(個人は建物を建築する)
土地の時価 5,000万円
土地の相続税評価額 4,000万円
借地権割合 70%
①権利金の支払いがなく、地代の支払いもない場合(使用貸借の場合) |
権利金相当額の役員賞与として課税される
(会社の処理:仕訳)権利金の認定課税 ↓ 会社は損金不算入、所得税の源泉徴収が必要 |
||||
②権利金の支払いがなくても甲(役員)が賞与を受けたとされない方法はあるか |
ア)相当の地代を支払う方法 イ)会社と甲とが無償返還を約して「土地の無償返還に関する届出書」を提出する方法 |
解 説
個人・法人それぞれの借地権課税は下記のようになっています。
【個人地主・法人借地人の場合の課税関係】
区 分 | 通常の権利金を収受する場合 | 通常の権利金を収受しない場合 | ||
相当の地代を収受する場合 | 相当の地代を収受しない場合 | |||
無償返還の届出がない場合 | 無償返還の届出がある場合 | |||
法人借地人 |
①支払権利金を借地権として計上 ②毎期の支払地代は、損金算入 |
毎期の支払地代は損金算入 |
①権利金相当額の受贈益課税(通常借地権として計上) ②支払地代は損金算入 |
①受贈益課税なし ②毎期の支払地代は損金算入 |
個人地主 |
①権利金収入は、譲渡所得(権利金収入が土地の時価の2分の1を超える場合)又は不動産所得 ②毎年の地代収入は不動産所得 |
毎年の地代収入は不動産所得 | 実際に収受している地代収入は不動産所得 | 同左 |
【法人地主・個人借地人の場合の課税関係】
区 分 | 通常の権利金を収受する場合 | 通常の権利金を収受しない場合 | ||
相当の地代を収受する場合 | 相当の地代を収受しない場合 | |||
無償返還の届出がない場合 | 無償返還の届出がある場合 | |||
個人借地人 (社長) |
①支払権利金は借地権の取得費 ②毎年の支払地代は、必要経費又は家事関連費 |
毎年の支払地代は、必要経費又は家事関連費 |
①権利金相当額について、給与所得として課税 ②毎年の支払地代は必要経費又は家事関連費 |
①毎年の支払地代は必要経費又は、家事関連費 ②地代差額について毎年給与所得として課税 |
法人地主 |
①権利金収入の益金算入(権利金収入が土地の時価の2分の1以上の場合は土地の帳簿価額の一部損金算入) ②毎期の地代収入の益金算入 |
毎期の地代収入の益金算入 |
①権利金相当額の認定課税(社長に対する賞与) ②毎期の地代収入の益金算入 |
①毎期の地代収入の益金算入 ②地代差額について毎期認定課税(社長に対する報酬) |
- 企画・発行
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三井不動産リアルティ株式会社
東京都港区霞が関 3-2-5 霞が関ビルディング
https://www.mf-realty.jp/
- 監修
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東京シティ税理士事務所
税理士 山端 康幸
https://www.tokyocity.co.jp/