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ケーススタディ
5.特定事業用資産の買換えの特例
特定事業用資産の買換え特例とは、10年超所有等の要件を満たした事業用資産(貸家や駐車場などの小規模な業務でも可能)を売却して、一定の事業用資産に買換えた場合、譲渡利益の80%は課税の繰り延べを認めるというものです。法人、個人とも同様の特例があります。
(「2.特定の事業用資産の買換えの特例」もあわせてご参照ください。)
(1)個人の特定事業用資産の買換え特例
1988年(昭和63年)に取得したA市の賃貸用不動産(土地及び建物)を2024年(令和6年)に6,000万円で売却(取得費は1,500万円、譲渡費用は300万円)しました。その売却代金でB市に賃貸用不動産(土地及び建物)を5,000万円で取得しました。特定の事業用の買換特例を使った場合の税金はいくらになるでしょう?
※A市およびB市の賃貸用不動産は相当の対価を得て継続的に事業を行っているものとします。
また、特例を受けるための要件を満たしているものとします。
■特例の適用がある場合の税額計算
(→こちらをご参照ください)
①収入金額
譲渡収入金額 |
買換資産の取得価額 |
|
6,000万円 - | (5,000万円 × 80%)(※) = | 2,000万円 |
②取得費及び譲渡費用
譲渡資産の取得費・譲渡費用 |
譲渡収入金額 |
買換資産の取得価額 |
|
(1,500万円 + 300万円)× |
6,000万円 - | 5,000万円 × 80%(※) |
= 600万円 |
6,000万円 (譲渡収入金額) |
③所得税・住民税額
収入金額 |
取得費・譲渡費用 税率 |
|
(2,000万円 | - 600万円)× 20.315% = | 284万円(注) |
■上記のケースで、B市の賃貸用不動産を8,000万円で取得した場合
①収入金額
譲渡収入金額
6,000万円 × 20% = 1,200万円
②取得費及び譲渡費用
譲渡資産の取得費・譲渡費用
(1,500万円 + 300万円)× 20% = 360万円
③所得税・住民税額
収入金額 |
取得費・譲渡費用 税率 |
|
(1,200万円 | - 360万円)× 20.315% = | 170万円(注) |
(注)税額計算は円単位で計算しますが、便宜上「1万円未満」を切り捨てて計算しております。
※地域再生法の集中地域以外の地域から集中地域への買換えについては、譲渡資産と買換資産の範囲をご参照ください。
解 説
事業用資産で個人の場合は要注意です。「事業と称するに至らない不動産の貸付でも相当の対価を得て継続的に行われている」場合(「業務」といわれる)には事業と同様に扱われます。法人の場合は資産の所有自体が事業の目的ですので範囲が広いと言えます。また、この特例は課税の免除ではなく、課税の繰り延べのため特に長期と短期では税率の異なる個人の場合は、買換え後すぐの売却ですと、取得価額は前の譲渡資産の取得費を引き継ぎ、取得時期は買換えの時から起算するため短期譲渡所得の税率で課税されることになります。
(2)法人の特定資産の買換えに係る圧縮記帳制度
■圧縮限度額の計算
・売却物件
売却金額 15億円
土地帳簿価額 7億円
・買換取得物件
土地取得価額 10億円
建物取得価額 5億円
・譲渡費用
5,000万円
■圧縮記帳の仕訳
《法人の仕訳》
売 却 時 |
現金 | 15億円 | 土地 | 7億円 | |
固定資産売却益 | 8億円 | ||||
譲渡費用 | 5,000万円 | / | 現金 | 5,000万円 | |
買 換 時 |
建物 | 5億円 | / | 現金 | 5億円 |
土地 | 10億円 | / | 現金 | 10億円 | |
建物圧縮損※ |
2億円 | / | 建物 | 2億円 | |
土地圧縮損※ |
4億円 | / | 土地 | 4億円 |
※圧縮限度額
(算式) 圧縮限度額 = 圧縮基礎取得価額 (注1)× 差益割合(注2) × |
80(※) |
100 |
(注1)圧縮基礎取得価額とは、買換資産の取得価額又は譲渡資産の譲渡対価の額のうちいずれか少ない金額をいいます。
また、買換資産が2以上ある場合には、まず、1つの取得資産の取得価額に達するまでの譲渡対価を充て、次にその残額の譲渡対価を別の買換資産の取得価額に達するまで充てます。譲渡対価をどの買換資産の価額から優先的に充当するかは、法人の任意です。
(注2)差益割合 = {譲渡対価 -(譲渡資産の帳簿価額+譲渡費用)}/譲渡対価
(上記例の場合)
圧縮限度額 (建物) = 5億円 × 50% (注)× |
80(※) | = 2億円 |
100 | ||
圧縮限度額 (土地) = 10億円 × 50% (注)× | 80(※) | = 4億円 |
100 |
(注)差益割合: |
15億円 -(7億円 + 5,000万円) |
= 50 % |
15億円 |
《法人の所得》
8億円(固定資産売却益)- 5,000万円 (譲渡費用) - (2億円+4億円)(圧縮損) = 1.5億円
《建物の簿価》
5億円(建物)- 2億円 (建物圧縮損)= 3億円
《土地の簿価》
10億円(土地)- 4億円 (土地圧縮損)= 6億円
※地域再生法の集中地域以外の地域から集中地域への買換えについては、譲渡資産と買換資産の範囲をご参照ください。
解 説
法人税の課税標準となる各事業年度の所得の金額は、その事業年度の益金(収入)の額から損金(経費)の額を控除して算出しますので、固定資産の譲渡益はすべて益金課税となります。しかし、法人が固定資産を譲渡し、その譲渡代金で譲渡した固定資産と同種の固定資産を取得するような場合は、実体的には固定資産の保有状況には特に変化がないことと同じであるため、譲渡はなかったものと考えられます。このように、その譲渡益について直ちに課税することは必ずしも適当でない場合もあります。そこで、法人税法においては固定資産の譲渡益について一定の要件を満たす場合には、直ちに課税せずに、課税を将来に繰延べる制度を設けています。これを圧縮記帳制度と呼んでいます。
- 企画・発行
-
三井不動産リアルティ株式会社
東京都港区霞が関 3-2-5 霞が関ビルディング
https://www.mf-realty.jp/
- 監修
-
東京シティ税理士事務所
税理士 山端 康幸
https://www.tokyocity.co.jp/