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ケーススタディ
12.家族信託の活用事例
< 事例 1 > 高齢者の認知症に備える家族信託
80歳のAさんは、昭和60年代に建築された一棟マンションを所有しています。Aさんは、一棟マンションが築後30年を超え、今後、いろいろな修繕工事が発生することから、一棟マンションを売却し、そろそろ管理が容易な区分所有マンション数戸に買換えたいと考えています。しかしながら、Aさんは、自身が高齢であることから、将来、重病や認知症になって判断能力を失ってしまうと、不動産を売ったり買ったりすることができなくなってしまうのではないかと心配しています。Aさんには息子Bさんがおり、日頃から一棟マンションの管理を手伝ってもらっていることから、今後は、Aさん名義の不動産の管理や運用をBさんに任せてしまいたいと考えています。
一方、息子Bさんも、足腰が衰えて銀行に一人で行くのが大変になってきているAさんの体調を心配しています。Bさんは、Aさんにはゆっくりと生活して欲しいと考えていますが、不動産の名義や預金の名義が、Aさんのままでは、何をするにもAさん自身の判断が必要となるため、不動産の買換えについては賛成しているものの、不動産の売買契約や新しいマンションの賃貸契約などの手続きで、Aさんの負担が重くなってしまわないか、Aさんが重病や認知症になって判断能力が衰えてしまったときに、適切な資産の管理運用ができなくなってしまうのではないかと心配しています。
信託契約締結によるメリット
Aさんが元気なうちに、委託者をAさん、受託者をBさん、受益者をAさん、信託財産を一棟マンションとして、AさんとBさんとの間で信託契約を締結します。
信託契約は成年後見制度とは異なり当事者の契約によります。したがって、信託財産(Bさんに託する財産)を何にするのか(Aさんの財産のうちの一部でも全部でも構いません)、どのように信託財産の財産管理をするかは、AさんとBさんの間で締結する信託契約で自由に決めることができます。将来、Aさんが判断能力を失ったとしても、一棟マンションから生じる収益を受益者であるAさんの生活費や療養費にあてることもできますし、一棟マンションを売却して、複数の区分マンションに買換えることもできます。
信託契約は必ずしも公正証書により作成しなければならないというものではありませんが、公文書の証拠能力や公証人による本人確認などによって、信託契約書の有効性を担保することができます。
Aさんが判断能力を失ったときの財産管理の方法としては、後見制度を利用することが考えられますが、後見制度はあくまでも本人のための財産管理の制度であり、財産を維持しながら本人のためにのみ支出することが求められるので、リスクをとった積極的な資産運用や、相続税対策のために不動産を売買することはできません。
解 説
この事例ではAさんが委託者=受益者という関係となっていることを前提に説明をいたします。
◆登録免許税
所有権移転の登記分は非課税となりますが、信託の登記分は当該不動産(土地・建物)の固定資産税評価額の4/1,000です(土地については2026年[令和8年]3月31日まで3/1,000の特例措置がなされています)。
◆不動産取得税
受託者は信託登記によって所有権の移転を受けますが、登記簿上の形式的な移転に過ぎないという理由で課税されません。
◆譲渡所得税
委託者は受託者に所有権を移転しますが、信託による形式的譲渡で委託者に利益が発生するわけではありませんので、課税されることはありません。
◆固定資産税
信託による所有権移転登記をした翌年以後、不動産の形式上の名義人である受託者に対して、固定資産税の課税通知書が送付されます。受託者が新たに固定資産税の支払い義務を負うことになりますが、実務上は信託財産に関する費用として、信託財産から生じる収益から受託者が支払うことになりますので、実質的には受益者が負担していることになります。
◆贈与税
受託者への所有権が移転しますが、委託者=受益者であれば実質的な財産権の移動(経済的な利益帰属先の変更)はありませんので、課税されません。
< 事例 2 > 相続後の財産の移転先を決められる家族信託
CさんはDさんと再婚し、先祖代々受け継いできた自宅で生活しています。CさんとDさんの間には子供がいませんが、Cさんと死別した先妻との間にはEさん(成人)という子供がいます。Cさんは自分が亡くなった後もDさんに自宅を利用させたいと考えていますが、Dさんが亡くなった場合には、自宅を自分の子供であるEさんに引き継がせたいと考えています。
Cさんは、自宅をDさんに相続させてしまうと、Dさんが亡くなったときに、自宅がDさんの親族に相続され、自分の子供であるEさんに引き継ぐことができなくなることを心配しています。
信託契約締結によるメリット
委託者をCさん、受託者をCさんの子供であるEさん、信託財産を自宅として、CさんとEさんとの間で信託契約を締結します。受益者については、Cさんが生きているうちはCさんを受益者とし、Cさんが亡くなったらDさんを受益者とします。Dさんが亡くなったら信託が終了し、信託終了後の残余財産(自宅)の帰属先をEさんにしておけば、Dさんは、Cさんが亡くなった後も引き続き自宅に住み続けることができ、Dさんが亡くなった後はEさんが自宅を引き継ぐことができます。
このように、信託制度を利用すれば自分が亡くなった場合に自分の財産を相続する者を指定するだけでなく、次の相続(自分の相続で財産を相続した者が亡くなったとき)まで指定することもできます。
解 説
この事例に関する税金について説明をいたします。
◆登録免許税
CさんがEさんに信託により所有権を移転するときは、事例1と同様です。
Cさんが亡くなり、受益者がCさんからDさんに変更すると「受益者変更登記」が必要となり、不動産1筆につき1,000円が課税されます。
また、Dさんが亡くなった場合には信託が終了し、自宅はEさんに帰属することになりますが、その場合には「所有権移転及び信託登記抹消」の登記が必要となり、所有権移転登記の登記分として、当該不動産の固定資産税評価額の1,000分の20、信託抹消登記の登記分として、不動産1筆につき1,000円が課税されます。
仮に、信託を利用せずに、CさんからDさんに自宅を相続させ、DさんがEさんに自宅を遺贈した場合には、CさんからDさんへの相続による「所有権移転」の登記及びDさんからEさんへの遺贈による「所有権移転」の登記が必要となり、相続による「所有権移転」登記の登記分として、当該不動産の固定資産税評価額の1,000分の4が課税され、遺贈による「所有権移転」の登記分として、当該不動産の固定資産税評価額の1,000分の20が課税されます。
◆不動産取得税
Cさんの信託については事例1と同様で、CさんからDさんに受益権が移転しても課税されません。ただしDさんが亡くなり信託が解除され自宅をEさんが取得すると実物不動産の所有権移転に対して課税されます。
◆譲渡所得税
Cさんの信託については事例1と同様。その後も実物不動産の譲渡自体は生じないため課税されません。
◆固定資産税
受託者Eさんに対して課税されますが、信託財産の管理のための費用として受益者に請求することによって実質的には受益者が負担することになります。
◆贈与税・相続税
Cさんの相続によってDさんが受益者となった場合は、実質的な財産権の移動が起こりますので、遺贈により受益権を取得したとみなして相続税が課税されます。この場合、小規模宅地等の減額特例の適用は可能です。さらにDさんが亡くなり信託契約が終了する時点では、経済価値が受益者であるDさんから残余財産の帰属権利者である子供Eさんに移動するため、相続税が課税されます。なお、保有資産が信託財産になっても相続税評価額に変更はありません。相続税評価においては、所有権から信託受益権にその評価対象が変わることになりますが、その受益権の評価額は、信託された財産(所有権)の評価額と同額になります。
- 企画・発行
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三井不動産リアルティ株式会社
東京都港区霞が関 3-2-5 霞が関ビルディング
https://www.mf-realty.jp/
- 監修
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東京シティ税理士事務所
税理士 山端 康幸
https://www.tokyocity.co.jp/